おばちゃんが来たから、もう大丈夫!!

  
『ほっとけないわよ!』
それがおばちゃんの口癖だった。
 
ある冬の日、
日が暮れてだいぶん時間がたったころ、
おばちゃんのところに一本の電話がかかってきた。
 
Aこさんからだった。
特に親しい付き合いはなかったものの、
A子さんは以前から、おばちゃんの評判を聞いていた。
 
『おばちゃん!助けて!!
 友達が大変なの!
 私じゃ助けられないの!!』
 
その言葉を聞いただけで、
おばちゃんはすべて理解できた気がした。
 
『わかった!! すぐに行くから!!』
 
そう伝えて電話を切ると、
3分後には家を飛び出していた。
 
おばちゃんは途中コンビニに立ち寄り、
肉まんを買い、A子さんのアパートに向かった。
 
アパートに到着し、A子さんの部屋に入った時、
A子さんの前には、能面のように表情がなく、
血の気のない青ざめた顔で女性が座っていた。
 
おばちゃんは、やっぱり!と、思った。
そして、
 
『おばちゃんが来たから、もう大丈夫!!
 これでも食べなさい。』
 
そう言って、買ったばかりの肉まんを差し出した。
 
その言葉を聞いた女性は、
突然、崩れるように意識を失ってしまった。
 
一瞬、慌ててしまったものの、
すぐに冷静さを取り戻したおばちゃんは、
女性の呼吸と心臓の音を確認してから、
A子さんと二人でその女性をさすり始めた。
 
しばらくすると、その女性は意識を取り戻した。
 
そして、
 
『もう大丈夫です。
 今、私の口から悪魔が出て行きました・・・』
 
そう言ってから女性は号泣した。
泣き叫ぶとはまさにこのこと、
そんなふうに思えるような泣き方だった。
 
 
女性は、失恋をきっかけに自暴自棄になり、
自信を失い、何もかもが嫌になり、
死ぬことばかりを考えるようになっていた。
 
その女性の先輩でもあるA子さんは、
すぐに女性の変化に気付き、
自分のアパートに呼んで話を聞こうとしていたのだった。
 
しかし、女性はA子さんの言葉に、
微かにうなづくのみで、
A子さんは自分の言葉が、
女性の心に響いている様子が全く感じられなかった。
 
以前、自分も同じような経験があるA子さんは、
どうしてもその女性を救いたいと思った。
 
その時、脳裏に浮かんできたのが、
おばちゃんの笑顔だった。
そしてすぐにおばちゃんに電話したのだった。
 
 
しばらくの間、女性は思いっ切り泣いた。
 
徐々に落ち着いてきたころ、
おばちゃんは肉まんを温めなおして、
もう一度、その女性に差し出した。
 
またまた女性の目から涙があふれ出してきた。
でも、さっきの涙とは違う涙のようだった。
 
涙をたくさん流しながらも、
肉まんを頬張る女性の姿を見て、
おばちゃんは「これでもう大丈夫!」と思った。
 
食べる、食べると言うことは、
生きる意欲が湧いてきたのだと、
おばちゃんは判断したのだった。
 
 
 
自分も人もすべてのものが信じられなくなって、
極まる孤独の中で必死に耐えてきた女性。
 
しかし、体力も気力も限界に達し、
最期の選択をしようとした。
 
そんなとき、
最強の慈悲エネルギーが
全身から溢れ出ているおばちゃんから、
 
『おばちゃんが来たから、もう大丈夫!!』
 
という言葉を、
あったかそうな肉まんとともに差し出された。
 
その瞬間、厚い氷で覆われていた女性の心が、
一気に溶けてしまったのだ。
 
 
 
人は、辛いこと、苦しいこと、悲しいことが、
極まってしまった時は、
どんなにもっともな言葉であっても、
言葉だけでは心に響いてこない。
 
自分のすべてを包み込んでくれる温もりを
感じることができた時、
人は蘇ることができるのだと思う。
 
おばちゃんは、これまでに、
自分でピリオドを打とうとした人を
7人も救ってきたという。
 
しかも、そのほとんどの人は、
それまでにおばちゃんとは縁もゆかりもない人ばかりだ。
 
おばちゃんは、たとえ会ったことのない人であっても、
直接的にでも、或いは、間接的にでも、
助けを求められると、
 
『ほっとけないわよ!』
 
と、言って家を飛び出していくのだった。
 
 
 
『今、私の口から悪魔が出て行きました・・・』
 
と、女性が言ってから10年近くたったころ、
とても仲睦まじいカップルが、
おばさんの家を訪れてきた。
 
その女性と、その夫となった男性だった。
二人で結婚を報告しに来たのだった。